東京都とその隣県では、家のない人が生活保護を申請すると、当面の宿泊先として民間経営の宿泊所に案内されるのが通例となっています。そのような宿泊所は東京とその隣県だけで3万人のキャパがあると言われ、コロナ禍でどこも一杯という状況が続いています。

行政の指導でおなじ部屋で複数の人が寝泊まりする相部屋形式は減ってきたものの、トイレ風呂は共同、食事が2~3食提供されるが食べても食べなくても食費は取られ、利用料を支払うと手元に残る生活保護費が3万円~数千円だけというところがほとんどです。良心的な宿泊所もあると聞いて居ますが、多くは貧困ビジネスと言われるようなところです。

大手の宿泊所は上野や新宿・池袋に手配師と呼ばれるリクルーターを派遣して路上生活者を勧誘し、生活保護を申請させ、利用料を取るというところもあります。

また、最近は郊外のアパートやマンションで入居者が集まらない不人気物件を安く買い取り、路上生活者を入居させて生活保護をうけさせ、高額な家賃を取り、物件の利回りを上げて事情を知らない第三者に高値で売り抜けるという新手の貧困ビジネスも出現しました。

そのような貧困ビジネスから逃げてきた相談者はとても多く「あんな生活はもう無理」とおっしゃいます。

貴重な税金から生活保護費が出ているのに、利用者が元気になるどころか堪え忍ばなければならないこの仕組みはどう考えてもおかしい。私たちは、最初から普通のアパートやマンションで生活し、そこから次のステップに向かう「ハウジングファースト」を日本の福祉に定着させるための実験的なプロジェクト「ハウジングファースト東京プロジェクト」を2016年から行っています。プロジェクトは他団体多職種で構成されて、相談・住まい・医療・日中の活動など生活全般を支える支援を行っています。

そのなかで一番大切な支援が、路上から直接入居できる普通のアパート=シェルターです。路上から直に普通のアパートに入居して頂き、そこで一人暮らしのためのさまざまな準備をして数ヶ月後には自分で契約した住宅に転宅することを目指します。

 

シェルター利用者

2021年度中のシェルター利用者は51人でした。

そのうち

・24人がご自分のアパートに転宅(引っ越し)。

 多くの方はその後も関わりが続いています。

・8人は残念ながらシェルター利用中に失踪または逮捕拘留されて退去。個人情報なので詳しいことは書けませんが、さまざまなドラマがありました。

*シェルターから失踪したけど、また戻ってきてシェルターを再利用された方が2名

・他は利用継続中です。

シェルターの数と場所

2022月7月時点で22室。

豊島区に7室、練馬区に13室 板橋区に2室。

どこもバス(一部はシャワー)・トイレ・キッチンと家電のある普通の部屋です。 

最後のテント村

  豊島区の公園でも、20年以上続いたテント村がありました。元は10人近くがそこで生活していましたが、だんだん住民が減って、最後の5人になったところでリーダー格のYさんが病気で亡くなりました。

残った4人は豊島区・てのはしと話し合って、てのはしのシェルターに3人、役所が用意したアパートに1人と全員が引っ越して、今は全員がご自分で契約したアパート・マンションで生活されています。80歳のいまさんは「テント村はよかった」と懐かしんでいらっしゃいますが、家のある生活もまんざらではない様子です。

この記事を書いた人

清野 賢司

清野 賢司

都内中学校の社会科教員として働いていたところ、2002 年に東京都東村山市で起きた中学生によるホームレス暴行死事件に衝撃を覚え、2004 年から総合学習で「ホームレス」問題の授業を行う。2017 年に退職し、特定非営利活動法人TENOHASI 事務局長としてホームレス支援活動を開始する。